第73章

田中辰哉は彼女を一瞥すると、いきなりケーキをひとかけ押しつけてきた。

大島莉理はぽかんとして田中辰哉を見る。

当の本人は発表会など欠片も興味がないといった顔で、「甘いぞ。食べてみろ」とだけ言った。

大島莉理がケーキをひと口かじった、その瞬間――会場に田中尚哉の声がマイク越しに響き渡る。

「原稿を盗んだ人物は、すでに特定できています。そして本人も、過ちを認め、責任を取る意思を示しました」

言い終わるやいなや、舞台袖から中年の男がひとり、ゆっくりと上がってきた。

老け込み、疲れ切った顔。剃り残した無精ひげ。

目立たない服装が、逆に場違いさを強調している。

記者たちが一斉に押し寄せ...

ログインして続きを読む